藺牟田池の生態系調査をしています

更新日:2024年03月12日

藺牟田池生態系調査について

藺牟田池及びその周辺の生態系調査を実施し、平成17年11月8日のラムサール条約登録時直後の平成18年度に実施した調査結果とその後に実施した調査結果を比較分析することにより、これまでの環境変化を考察し、これからの藺牟田池の環境保全計画及び利活用計画に反映することを目的に実施しています。

これまでの調査結果の概要

哺乳類の状況

平成18年度調査では、キュウシュウノウサギ、ニホンアナグマ、コウベモグラ、ホンドタヌキ及びユビナガコウモリほか鹿児島県レッドデータブックの絶滅危惧であるカヤネズミ等が確認されましたが、内陸の小規模火山湖であること及びその周辺の外輪山が物理的障壁となりやすい地勢的な状況に加え、自然林が一時的に大きな比率で消滅し、現在の人工林に転換されたことから、生息密度は低く哺乳類の生物多様性は低いと考えられます。

両生類の状況

平成18年度調査では、池に隣接する水田周辺で、ヌマガエル、ニホンアマガエル及びシュレーゲルアオガエルが高密度に確認されています。

また、鹿児島県及び環境省レッドデータブックに準絶滅危惧に指定されているアカハライモリ、鹿児島県レッドデータブックに準絶滅危惧に指定されているトノサマガエルも確認されました。

アカハライモリ及びトノサマガエルについては、良好な自然環境が保たれている水田の減少により個体数は減少していると考えられます。

過去の文献では、1982年当時、藺牟田池で多いカエルは、ツチガエルでしたが、平成18年度の調査では全く確認されず、優占して確認されたのはヌマガエルであり、20年ほどの間に、ツチガエルからヌマガエルに優占種の交代が起こった可能性がありますが、その要因や経緯については不明です。

アカハライモリ

アカハライモリ

トノサマガエル

トノサマガエル

爬虫類の状況

平成18年度調査では、外来生物法により要注意外来生物に指定されているアカミミガメが確認されました。

アカミミガメは、3個体捕獲され、すべて殺処分したうえで、胃内容物調査を実施しました。

胃の内容物はカヤツリグサ科やイネ科の草本または緑藻類で植物質が大半を占めていました。

確認された個体数が少ないため、アカミミガメが優占しているかどうかは不明ですが、藺牟田池に隣接する生態系保存資料館アクアイムへ公園利用者が持ち込むケースが増加し、その中には、ふ化後間もない個体もあり、繁殖しているものと考えられ、在来種への影響が懸念されています。

アカミミガメ

アカミミガメ

鳥類の状況

平成18年度調査では、留鳥が34種、冬鳥が30種、夏鳥が2種、旅鳥が2種確認されました。藺牟田池一帯では、夏鳥が少なく、冬鳥が多く確認されていることから、渡り鳥としての利用は少なく、越冬地としての利用が多いという特徴があります。

鹿児島県及び環境省レッドデータブックに準絶滅危惧に指定されているミサゴも確認されました。ミサゴは、通常、海岸や河口周辺で確認されることが多く、藺牟田池のような内陸で確認されることは珍しいため、餌の探索のため河川を遡って来たもので、常時生息している個体ではないと考えられます。

また、コブハクチョウ、ガチョウ、アイガモ、ドバトの4種の移入種も確認されました。

特に、コブハクチョウは、1976年以降、観光目的で他市から移入し放鳥した結果、ジュンサイを食べつくし消滅する要因となり、踏圧や糞害により天然記念物である浮島の植生に対しても悪影響を及ぼしました。

令和4年度調査では、最盛期50羽を超えていたコブハクチョウの数は3羽まで減少していますが、藺牟田池にはコブハクチョウの餌が売られており、観光客等の餌まきにより、冬季に越冬のために渡ってきたヒドリガモが餌付けされたために、春季に渡りを行わず、越夏したものと考えられ、生態系への影響が懸念されます。

コブハクチョウ

コブハクチョウ

魚介類の状況

過去の文献において1980年頃は、オイカワ、カワムツ、メダカ、ドンコ等の在来淡水魚の記録がありますが、1984年頃にオオクチバスが確認されて以降、2000年代には在来淡水魚の記録が全くなく、絶滅した可能性があります。

平成18年度調査では、在来種では、ウナギ、ギンブナ、トウヨシノボリや、鹿児島県及び環境省レッドデータブックに準絶滅危惧に指定されているマルタニシ、鹿児島県レッドデータブックに準絶滅危惧に指定されているドジョウが確認されました。

令和4年度調査では、これらの重要な種の保全については、生息地である水路の維持が欠かせませんが、近年、高齢化、後継者不足などにより水路の手入れがなされておらず、植物が生い茂り陸地化が進行しています。今後、重要な種の生息地を維持するためには、水路の浚渫や土手の草刈りなど、従来から営まれている手入れを適宜行っていく必要があります。

移入種では、ゲンゴロウブナ、カムルチー、ブルーギル、オオクチバスの4種が確認されましたが、ブルーギル、オオクチバスの胃内容物からベッコウトンボをはじめとするトンボ類が多く確認されており、魚類のみならず、水生生物全体に影響を及ぼしていると考えられます。

マルタニシ

マルタニシ

ドジョウ

ドジョウ

昆虫類の状況

平成18年度調査では、水域では、クロイトトンボ、タイワンウチワヤンマ、ギンヤンマ及びトラフトンボ等数多くのトンボ類の幼虫がカサスゲやマコモなどの浅瀬の挺水植物の根際に集中して確認され、種の保存法の国内希少野生動植物種のベッコウトンボの幼虫は、泥炭層の浅瀬で確認されました。

また、鹿児島県及び環境省レッドデータブックに準絶滅危惧に指定されているエサキアメンボが鹿児島県では初めて確認されましたが、平成30年度調査では確認することが出来ませんでした。

陸域では、ホソミイトトンボ、クロイトトンボ及びモノサシトンボ等数多くのトンボ類の成虫が確認され、鹿児島県及び環境省レッドデータブックに準絶滅危惧に指定されているギンイチモンジセセリも確認されています。

平成30年度調査では、ヒメアカネが初めて確認されました。

令和5年度調査では、ヒメボタル、アサギマダラが生息していることが確認されました。

エサキアメンボ

エサキアメンボ

ギンイチモンジセセリ

ギンイチモンジセセリ

ヒメボタル

ヒメボタル

アサギマダラ

アサギマダラ

植物の状況

過去の文献において、1980年代の前半まで、池の中央部には、ジュンサイ、ヒツジグサ及びヒシ等の浮葉植物群落が形成されていましたが、1990年代にかけコブハクチョウの放鳥等により消滅したと考えられます。

平成18年度調査では、池の北側や西側に分布していたヨシ群落、北側に分布していたマコモ群落が消滅しており、これらの欠損箇所は、湿地全体の約20%にあたり、欠損部分の水深は60センチメートルから80センチメートル程度で0センチメートルから20センチメートル程度を最適水深とするヨシの生育場所としては比較的深く、原因としては藺牟田池の水位が長期間一定の水位を越えたことで、長期間の水没によりヨシの根茎部が酸欠状態に陥り、枯死したものと考えられます。

淡水産の藻類である環境省レッドデータブック絶滅危惧に指定されているミノフラスコモ、ホンフサフラスコモ、ハデフラスコモについても1964年までは分布していましたが、その後の水質の富栄養化により3種とも消滅したと過去の文献に記録されています。

平成31年度調査では、ヨシ群落が再び群落を形成し、着々と分布を広げつつありますが、従前よりはまだかなり小さい状況です。

また、藺牟田池で最も広く占めるアンペライ群落は減少傾向にあります。

湿原の西側半分のほぼ全域で、繁殖力が強く、外来生物法で要注意外来生物に指定されているキショウブが確認されました。湿原には多くの絶滅危惧種が存在しており、これらの種と競合あるいは駆逐する恐れがあります。

藺牟田池泥炭植物形成植物群落の状況

平成31年度調査では、1996年の泥炭形成に関わる植物群落面積を100%とすると、2008年は78.7%、2016年は70.3%、2019年は61.1%と大幅に減少しています。

藺牟田池の泥炭はアンペライ群落、ヒトモトススキ群落、マコモ群落、ヨシ群落の挺水植物からなる低層湿原由来の植物体が腐敗分解されずに水中に堆積することで形成されています。この挺水植物群落は主にヨシ群落が消失することで大きく減少しています。

浮島01

コブハクチョウの踏圧で無植生となった浮島

湿地

ヨシが減少した湿地

今後の自然環境保全の課題

外来生物の問題

種の保存法の国内希少野生動植物種のベッコウトンボの幼虫や成虫を捕食するブルーギル、オオクチバス等の外来魚や天然記念物である浮島植生や野生のカモ類などに悪影響を及ぼすコブハクチョウほか藺牟田池で確認された外来生物については早急な対応が必要です。

ブルーギル

ブルーギル

オオクチバス

オオクチバス

在来種魚類相の回復

藺牟田池は河口湖であり、生息する魚類の大部分は人間によって持ち込まれたものであると考えられます。

現在、藺牟田池の魚類相は、ほぼ外来魚によって構成されており、藺牟田池への流入河川が無いことから、外来魚を駆除しても在来種による魚類相が回復する可能性は低く、学識者の意見を参考にしながら、外来魚の積極的な駆除に加え生物多様性の保全を目指した放流等も検討する必要があります。

水位の適正管理

かつての藺牟田池には、水位も低く、池の辺縁に十分な湿性植物が生える空間が形成されていました。その結果、多様な植物が生え、その植物を食べる昆虫やその昆虫を食べる鳥等、多様な食物連鎖が発生し、多様な湖水生態系が形成され、その価値が認められ天然記念物に指定され、ラムサール条約登録湿地に登録されました。

湿地の生態系は、水環境に適応しており、水位の変化に脆弱です。藺牟田池は、水位変動が大きく、水位変動により絶えず侵入と衰退を繰り返していると考えられます。

自然環境を保全していくうえで、安定的な動植物の生息、生育を維持するために湿地の適正な水位を維持する必要があります。

令和4年度調査では、藺牟田池の適正水位は30センチメートルから54センチメートルの間で維持することが望ましいことがわかり、現在池の水位が100センチメートルを超えると洪水吐から越流するので、農地に水を供給することのない10月上旬から6月上旬には54センチメートルで越流できるよう洪水吐の抜本的な改修工事を検討する必要性があります。

現在の取り組み状況

生態系調査・水質調査の実施

ラムサール条約登録直後に実施した調査結果と、その後に実施した調査結果を比較分析することにより、これまでの環境変化を考察し、藺牟田池の環境保全と利活用に反映することを目的としに実施しています。

鳥類・魚介類調査、昆虫類調査、植物調査を概ね5年間隔で実施しています。

ベッコウトンボの頭数記録

地元のいむた池愛好会、ベッコウトンボを保護する会、児童生徒の協力により全国で唯一、平成8年度から長期間にわたりベッコウトンボの頭数記録が行われてきました。

現在は、環境省の事業として行われています。

リリース(再放流)の禁止

オオクチバスなどは、釣り上げた後、魚を生かしたまま、釣った水域に放流する「キャッチ・アンド・リリース(再放流)」が一般的になっていますが、薩摩川内市では条例で平成18年7月1日から、釣った外来魚について「リリース(再放流)」することを禁止しています。

外来魚回収ボックスの設置

藺牟田池で釣った外来魚は、外来生物法により生きたまま持ち帰ることはできず、外来魚の回収ボックスを設置し、釣った外来魚を回収しています。

ビオトープの設置

平成23年、ベッコウトンボが生息できる場所の確保と、藺牟田池の自然を身近に観察できる場所の確保を目的としてビオトープを整備しました。

全国トンボ市民サミット薩摩川内大会

トンボを豊かな水辺と森のシンボルとして日本全国で人と自然が共生できる地域づくりに貢献できる全国規模の催しとして、平成23年、第22回全国トンボ市民サミット薩摩川内大会が開催されました。

外来魚の買い取り

平成23年度より、指定管理者 株式会社小園建設の自主事業として、来館者を対象に、無料で竿を貸し出し、ブルーギル10円、オオクチバス・カムルチー(雷魚)20円で外来魚の買い取りを行っています。

外来魚釣り大会

平成27年度から、希少生物のベッコウトンボを含むすべての在来生物、生態系の保護を目的とした外来魚釣り大会(ブルーギル、ブラックバス)を開催しています。

ラムサール登録10周年記念式典

平成27年度には平成17年11月8日藺牟田池がラムサール条約登録湿地として登録され、10年目となることを記念して、ラムサール登録10周年記念式典が行われました。

藺牟田池生態系調査報告書

平成18年度調査

平成30年度調査結果

平成31年度(令和元年度)調査結果

令和4年度調査結果

令和5年度調査結果

この記事に関するお問い合わせ先

市民安全部 環境課 生活環境グループ
〒895-8650 神田町3-22
電話番号:0996-23-5111 ファックス番号:0996-20-5570
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